中小企業 マーケティング診断事例:理容室A社


※この内容は企業秘密を考慮し、内容を実際のものから一部デフォルメして掲載しています。

現状

池袋駅に程近いA社は年商5000万円ほどの個人事業主が経営する理容室です。

当社は、経営者が自らが進める「理容業」に対し、明確なコンセプトを持ち、ターゲット顧客も設定して2016年に創業しました。

コロナ禍において売上を大きく落としていましたが、2022年以降に回復してきました。

当社の経営課題の1つがさらなる売上の拡大でした。

そのために、激戦区の中での新規顧客拡大に向け、当社では①自社ホームページの作成・運用、②SNS(Instagram)、③デジタル広告(リスティング広告・ターゲティング広告)を活用しています。

これらプロモーション施策に対し、年間
200万円ほどの費用を投じています。

なお、大手の業界サイトへの掲載については、過去実施したことがあるものの、掛かる費用の割に成果が出ない、あるいは当店のターゲット顧客層とこれら業界サイトのターゲット顧客層が異なるなどの理由により現在は実施していません。

しかし、これらを通じた新規顧客の獲得数は月に1~2名程度にとどまっていました。


課題

① Webサイト

当社のWebサイトには以下の課題がありました。

検索からの流入が難しい

池袋は美容室・理容室の激戦区の1つです。

Webサイトで「
池袋 理容室」などで検索すると、上位には業界サイトが並ぶ状況です。

このような状況で、個店がWebサイトから新規顧客の流入を図るためには、工夫が必要です。

ターゲットやコンセプトの訴求が不十分

当社は創業時、明確なターゲットとコンセプトを設定していました。

また、代表の熱い思いが強みであり、訴求ポイントとなっていました。

しかし、当社のWebサイトのファーストビューやコンセプトメッセージには、これらを表すキーワードが含まれていません。

これらは一部、ブログの記事などに含まれていますが、直近では予約情報の発信が中心であり、結果として埋もれてしまっています。

新規のユーザーにはハードルが高い印象

当社のWebサイトは、全体的に「言葉」によるメッセージや説明が多くありませんでした。

結果として、当社(当店)について、もしくは掲載されている画像情報の意味合いなどが伝わりにくい印象です。

また、予約ページはメニューが豊富である分、初めての顧客(新規顧客、潜在顧客)にとっては次のアクションを起こす判断が難しい印象を受けました。

② SNS(Instagram)

当社のSNS(Instagram)には以下の課題がありました。

情報のカテゴリが分かりにくい

SNSそのものの特性ですが、ライトに情報発信ができることがメリットの1つです。

一方で、日々更新されていく結果、必要な情報が埋もれたり、情報がどのようなカテゴリであるか(例:カット例/コーディネート例/男性・女性)が不明確になったりしやすいという点があります。

当社のSNS(Instagram)においてもそのような部分が見受けられました。

親しみがあまり感じられない印象

当社のWebサイトには洗練されたモデルが多数登場しています。

非常にオシャレな印象ではあるものの、結果として、親しみがあまり感じられない印象を受けます。

また、「言葉」が少ない点でも店舗や従業員への親しみやすさを感じにくい印象を感じます。

これらにより、初めてのお客様(潜在顧客)にとっては、少し二の足を踏んでしまう面もあるのではないかと推察されました。

③ デジタル広告

当社では、デジタル広告として、検索上位表示を狙う「リスティング広告」と、SNS(Instagram)ユーザーのうち、当社に適したターゲットに絞って広告を行う「ターゲティング広告」を実施していました。

しかし、先述の通り、思うような新規顧客獲得効果が得られていません。

当社の取り組み課題

以上より、この診断事例では、以下の項目を取り組み課題として設定しました。

当社の取り組み課題

・自社Webサイト、SNS、デジタル広告からなる「トリプルメディア」の最適化

・特に、自社WebサイトとSNSを「オウンドメディア」として位置付けて、潜在顧客を獲得する。



解決の方向性(基本的な考え方)

当社における今後の課題解決の方向性として、以下のように設定しました。

「オウンドメディア」を軸としたプロモーション戦略の実行

既に当社ではWebサイト(ホームページ、ブログ)とSNS(Instagram)を制作・運用しており、これをベースに「オウンドメディア」として位置づけた改善施策を立案しました。

「オウンドメディア」とは、企業が独自に運用・情報発信を行うメディアを指します。

これら「オウンドメディア」を、デジタル広告(「ペイドメディア」の一種)やユーザー発信によるSNS等
(「アーンドメディア」)を合わせた「トリプルメディア」の視点から位置づけやメリット・デメリットを整理したうえで、強化施策を検討しました。

「トリプルメディア」とその中での「オウンドメディア」については以下のように整理できます。

トリプルメディアとその比較



詳しくは「【広告強化!→ でも金がない】トリプルメディアを最適化しましょう、というお話 | Marketing-Room」をご参照ください。

具体的な施策案

当社の課題解決の方向性をふまえ、以下のような具体的な施策案を提言しました。

オウンドメディアとしてのWebサイトの改善・強化

① ターゲットの明確化(ペルソナのブラッシュアップ)

当店は創業時にターゲットとなる「ペルソナ」を作成しています。

ペルソナとは、「自社の製品・サービスを “間違いなく” 購入・利用する具体的なお客様の人物像」です。

ペルソナについての解説は【ペルソナとは?】作る意味は?使い方は?具体的にはどうするの? | Marketing-Roomをご参照ください。

創業から8年が経過する中で、既に固定客を獲得しさらなる新規顧客の開拓を進めていくうえでは、実在する固定客の特徴などもふまえて、改めてペルソナをブラッシュアップすることが必要であると考えました。

ペルソナを事業の初期段階の「理想像」として設定し、その後見直しをしていない、といったことは失敗パターンとして挙げられます。

② 提供価値の明確化

次に、ペルソナ顧客に対し、当理容室がどのような価値を提供できるかを整理することを提言しました。

Webサイトのリニューアルを行う上では、ここで表現される価値をキーワードとして活用・反映していくため、重要なアクションとなります。

提供価値を明確化するうえで有益な手法として「バリュープロポジションキャンバス」の活用が挙げられます。

詳細はキャズムとコトラーに聞け! バリュープロポジションキャンバスで価値を伝えよう! | Marketing-Roomをご参照ください。

この中で大切なことは、ユーザーから見た言葉(≒検索するキーワード)で表現することです。

また、「顕在的なニーズ」と「潜在的なニーズ」の2つの視点で捉えることが重要です。

Webサイトを検索するユーザーは、例えば「ショートカットにしたい」という「顕在的なニーズ」に限らず、「時間がないのでヘアセットをラクにしたいけど、こだわりのファッションは欠かせない」といった、悩みに対する手段(結果としてのショートカット)が明確になっていない「潜在的なニーズ」であるケースもあります。

それぞれを意識したキーワードを抽出することが重要です。


③ Webサイト構造の作成

作成したペルソナや提供価値を表すキーワードを基に、Webサイトの構造を設計します。

ここでは検索数が非常に多い(=激戦である、ビッグ・ミドルキーワード)「理容室 表参道」を上位に置き、これと各キーワードを組み合わせることで「ロングテールSEO」を狙います。

「ロングテールSEO」とは、Webサイトの検索というアクションにおいて、複数のキーワードを組み合わせた絞り込まれたニーズを想定し、より具体的な要望を網羅したコンテンツページを作成することで、検索ボリュームは減る一方で、競合を避けることにより上位表示を狙っていく戦略です。

それぞれのキーワードでの検索が進むよう、これに適したコンテンツを作成し盛り込んでいきます。

こういったSEO対策の考え方については【楽して獲得?】Webサイトで新規顧客を見つけるための基礎知識 | Marketing-Roomで詳しく述べています。

SNS(Instagram)の改善・強化

① Webサイトとの連携強化

Instagramは手軽に、リアルタイムに、リッチなコンテンツを発信していくことができる一方で、Webサイトと異なり情報の一覧性に欠けるという弱点もあります。

Webサイト側でカテゴリ(例:カット例/コーディネート例/男性・女性など)を作成し、関連するInstagram投稿へとリンクすることを提言しました。

このことで、当店がおすすめしたい画像を常にトップに掲載したり、ユーザーが必要な情報を探しやすくなるといったメリットが挙げられます。


② 文字入れ投稿

当社では、デザイン性を重視しているためか、写真をそのまま掲載していることが多い状況でした。

これに対し、安っぽくならない程度で動画像に伝わりやすい文字情報として盛り込むことで、ユーザーに届けたいメッセージや価値を明確にすることができます。

③ キーワードの盛り込みによるSEO対策

SNSの投稿に最適なハッシュタグを付けることにより、ユーザーから見つけてもらいやすくなります。

ここでも、Webサイトと同様に、ビッグキーワードだけでなく、当店のペルソナや提供価値を意識したロングテールキーワードを意識して活用することが重要です。

これらはハッシュタグに加えて、自己紹介欄やキャプション(投稿した写真に添える短い説明文)にも盛り込むことがInstagramのSEO対策にとって有益です。

④ 「ストーリー」機能の活用

24時間で投稿表示が消える「ストーリー」の機能を活用し、リアルタイム性の高いキャンペーンや「いまなら今日の予約が可能」といった情報を出していくことも有益です。


ペイドメディア(デジタル広告)との組み合わせ

オウンドメディアの補完

オウンドメディアの欠点として、短期的な集客効果が見込めないという点があります。

これを補うため、ペイドメディア(デジタル広告)を適切に組み合わせて連携していくことが重要です。

ペイドメディア(デジタル広告)は、短期的な集客に役立ちます。

実施施策案:インフルエンサーマーケティング

既に当店ではターゲティング広告やリスティング広告などを実施していますが、これに加え、他にもSNSならではの拡散を狙う「インフルエンサーマーケティング」も検討の余地があります。

この中には、比較的費用を抑えて実施できる「マイクロインフルエンサーマーケティング」などもあります。

これは通常の写真投稿の場合、フォロワー一人あたり1~2円ほど(=フォロワー10万人のインフルエンサーに投稿してもらう場合は10~20万円)が相場と言われています。

特定のジャンルで強い影響力を持ち、フォロワーとの距離感が比較的近いので、親近感・共感を獲得しやすく、行動喚起に繋げやすい特徴があります。

活動計画

タスクとスケジュール

本施策に関する大まかなタスクとスケジュールを以下のとおり設定しました。

① 活動計画検討(範囲、対応者、外注先など)… 1か月程度

② Webサイトリニューアル(設計・改修・運用)… 半年程度

③ 新たな広告手法の検討・準備・実施(インフルエンサーマーケティングなど)… ②以降

④ Webアクセス計測・分析などによるPDCAサイクルの実行 … 定期的に実行


費用イメージ

本施策に関する費用イメージは以下のとおりです。

・Webサイトリニューアル: 20~80万円(スポット)

・デジタル広告: 3万円/月(リスティング広告・ターゲティング広告)

・マイクロインフルエンサーマーケティング: 10~20万円