”4P戦略” は使えない?→ 有効活用の秘訣はこちら


【クイズ】「マーケティングの4P」を提唱したのは、誰でしょうか?(正解は本文中にあり)


「マーケティング」と言えば、”4P戦略だ!” と考えることも多いのではないでしょうか?しかし、この古くからあるフレームワークを有効に活用できているでしょうか?「あれは古い、使えない」ーーーーそんな声も聞こえますが、私の結論は「マーケティングの”4P” の有効活用には “秘訣” がある」です。どういうことでしょうか?解説していきます。


【想定】マーケティングの”4P戦略” が有効活用されない理由とは?

マーケティングの”4P戦略” というフレームワークが有効に活用できていないとしたら、どういう理由が考えられるでしょうか?

そのことについて触れる前に、基本的な内容をおさらいします。

そもそも、マーケティングの”4P戦略” とは?

マーケティングの4Pと言えば、フィリップ・コトラーを思い出します。

しかし、実際にはジェローム・マッカーシーが1960年に出版した彼の著書で最初に提唱したものと言われています。

いずれにしましても、「4P」とは以下の通りです。

Product(プロダクト:製品戦略): 企業がターゲット市場に提供する製品とサービスの組み合わせ

Price(プライス:価格戦略): 製品を獲得するために顧客が支払わなくてはならない代金の総額

Place(プレイス:流通戦略、チャネル戦略): 標的顧客まで製品を届けるために企業が行う活動

Promotion(プロモーション:販売促進戦略): 自社製品のメリットを標的消費者に伝え、買いたいと思わせる活動


これらを適切に組み合わせ、設定することを「マーケティング・ミックス」と言います。

コトラーの著書では次のように述べています。

マーケティング・ミックスは現代のマーケティングにおける主要概念の1つであり、ターゲット市場から望ましい反応を引き出すことを目的として組み立てる戦術的なマーケティング・ツールの集合体を指す。マーケティング・ミックスには、製品の需要を喚起するためにできるすべてのことが含まれる。それらは大きく4種類の変数、すなわち4つのPに分類できる。

「コトラー、アームストロング、恩蔵のマーケティング原理」(丸善出版)


【使えない!】→ ここがつまづきポイント!

さて、このようなマーケティングの4Pですが、有効に活用するうえでの難しさはどこにあるでしょうか?

これには以下の2つがあると考えています。

① 4つの最適な組み合わせを満たすことにこだわってしまう

先に「マーケティング・ミックス」という言葉を挙げた通り、4つのPを組み合わせて最適化することは重要なことです。

しかし、こられを”同時に” 進めることは実務的には容易ではありません。

結果として、机上の空論というか、検討をまとめるところから先の具体的なアクションになかなか進められません。

② Product、Price… と順に考えてしまう

人間とは不思議なもので、4つの項目があると順に考えてしまいます。

そして、このマーケティングの4Pでは、常に “Product” が先頭バッターに来ます。

しかし、現実的にはこの “Product” を変えることが一番難しいことでもあります。

一度投資をして開発したものは、回収できるまでそう簡単に変えることができません(と、考えてしまうのです)。

そこで思考停止・行動停止に陥ります。

有効活用するための2つの視点

これまでに挙げたつまづきポイントをふまえ、「マーケティングの4P」を有効活用するために、あわせて知っておきたい2つの視点をご紹介します。

① アンゾフの成長マトリクス

1つ目は「マーケティングの4P」と同じか、もしくはそれ以上に有名なフレームワークである「アンゾフの成長マトリクス」です。

アンゾフの成長マトリクスでは、事業の成長を考える際に、「市場・顧客」と「製品・サービス」の2つの軸で考え、それぞれ既存と新規に分けてマトリクス形式で整理します。

これは以下のような図で示されます。

アンゾフの成長マトリクス



ここまではご存じの方も多いでしょう。

しかし、以下のようにマーケティングの4Pと絡めて説明されるケースはほとんど見たことがありません。

・横軸は「製品・サービス開発」軸であり、マーケティング4Pで言えば「Product」と「Price」の色合いが強い

・縦軸は「市場・顧客開拓」軸であり、マーケティング4Pで言えば「Place」と「Promotion」の色合いが強い



このような見方で、具体的にどのように施策を検討・実行していくかについては、後述します。

その前に、もう1つ大事な視点を取り上げます。

それは「PMF」(Product Market Fit:プロダクト・マーケットフィット)です。

② PMF(プロダクト・マーケットフィット)

PMF(Product Market Fit:プロダクト・マーケットフィット)は、世界有数の投資会社の創業者であるマーク・アンドリーセンによって広められたものです

これは
顧客のニーズを満たす商品で、正しい市場(潜在的な顧客がたくさんいる市場)にいること」、もっと簡単に言えば「商品(Product)と市場(Market)が適合(Fit)している状態」を意味しています(参考:「新規事業を成功させるPMFの教科書」栗原康太 著、翔泳社)。

これは、私なりに言い換えるとすると、以下のようなものだと考えています。


PMFとは?(私の解釈)

PMFとは「製品が製品たり得ている状態。つまり、顧客の切実な課題や困りごとが実際に存在し、それを十分に解決できる機能(利用に伴う付帯的なサービスを含む)が不足なく備わっており、対価(価格)に見合っている状態」を指す。


私自身は、新製品・サービスの事業開発、立ち上げを多数経験していますが、このPMFに至っていない状況を何度も経験しています。

そのような状況では、営業活動やプロモーション活動をいくら進めてみても、いわゆるPoC(Proof of Concept:概念実証)やトライアルを実施するところまでがせいぜいで、これをもって「終了」となりがちです。

このような「PMF前」の状況では、Place戦略=流通戦略・チャネル戦略として販売網を拡げたり、Promotion戦略=販売促進戦略として、イベント出展やWebサイトでのリード(見込み顧客)獲得を進めてみても、大きな効果が得られません。

むしろ、中途半端に顧客に期待感を抱かせた一方で、製品として不十分であることが露呈してガッカリされたり、そのようなことが続くことで社内の担当者のモチベーションダウンが起こることが危惧されます。

そんなことを、私も多数経験しました…。




「マーケティングの4P」有効活用の具体例

ここまで、そもそもマーケティングの4Pとは何か、その活用の際のつまづきポイントはどんなものかについて触れてきました。

また、マーケティングの4Pと併せて考えるべきフレームワークとして、アンゾフの成長マトリクスとPMFを挙げました。

ここから、これらを組み合わせた考え方と具体例をご説明します。

まず、「PMF前」なのか「PMF後」なのかを考える

いまマーケティング対象として考えている製品・サービスは、もう十分に顧客ニーズを満たしていると確信できるでしょうか?

そうであれば「PMF後」、そうでなければ「PMF前」です。

ここを冷静に、客観的に、根拠を持って判断しましょう。

「PMF前」はProduct・Priceに集中する

PMF前の製品・サービスを、むやみに拡販しようとすると「後始末」が大変です。

問い合わせやクレームに追われたり、社内(営業など)からも信頼を失ったり…。

この時期は、提供価値(価格感も含む)やそのターゲットとなるペルソナを磨きこむことに集中しましょう。


これはProduct戦略そのものと言えます。

これについては、以下に詳細を述べていますので、ぜひご参照ください。



(参考)Price戦略についての示唆

個人的に、Price戦略(価格戦略)が一番打ち手が難しいと思っています。

安易な値下げや競合他社より1円でも安く…というのが本当に正しいのかどうか?(正しくないかどうかも、どういう根拠で判断できるか?)

そんな中、以下の
セオドア・レビットの言葉(ヘンリー・フォードの例)は大変参考になりましたのでここでもご紹介させていただきます。

世間は決まってフォードを生産の天才としてほめるが、これは適切ではない。彼の本当の才能はマーケティングにあった。フォードの組立ラインによってコストが切り下げられたので売価が下がり、五〇〇ドルの車が何百万台も売れたのだ、といわれている。しかし事実は、フォードが一台五〇〇ドルの車なら何百万台も売れると考えたので、それを可能にする組立ラインを発明したのである。大量生産は、フォードの低価格の原因ではなく、結果なのだ。(中略)「いくら詳細にコストを計算しても、それに基づいた価格で製品が売れないとしたら、そのコスト計算は何の役にも立たない(中略)まず価格を低いところに決め、その価格で経営が成り立つよう、全員が最も効率よく働かざるをえないようにすることだ(フォード)

『マーケティングの教科書』(ハーバード・ビジネス・レビュー)第3章「マーケティング近視眼」(セオドア・レビット)より




「PMF後」はPlace・Promotionで拡販

明らかに、自社の製品・サービスがターゲット顧客に受け入れられていると実感できた場合には、Place(チャネル)やPromotionで拡販を進めていきます。

Placeは店舗などの小売網やこれに至る卸、物流網などを示し、Promotionは広告や販売促進などブランド認知向上や購買促進にかかわる施策が含まれています。

これらにより、顧客に対し十分に価値を提供できる製品を、ターゲットとなる顧客まで「広くあまねく
浸透させていく」ことで売上を拡大することを狙います。

現代のPlace・Promotion

インターネットの登場以降、例えばオンライン上の広告を通じて顧客へ購買を促しつつ(Promotion)、その誘導先となるECサイト(インターネット上の店舗:Place)からそのまま最終購買にまでいたるなど、この2つがシームレスに融合するようになっています。

これらは当初、いわゆるB2Cマーケティング(最終消費者向けのマーケティング)が主戦場でしたが、もはやB2B(企業間取引)においても大きく普及しています。

さらに、B2Bビジネスでは、新型コロナウイルスの蔓延をきっかけにオンラインでの営業活動・マーケティング活動があたりまえとなり、「デジタルマーケティング・セールス」の取り組みが重要になります。

デジタルマーケティング・セールス」の詳細については以下を参照ください。


マーケティング4P × PMF ×アンゾフの成長マトリクスで見てみると…

ここで再び「アンゾフの成長マトリクス」を用いて、新規事業開発 → 事業成長・拡大 というシナリオをどう進めるかについてまとめます。

マーケティング4P × PMF ×アンゾフの成長マトリクス


① 市場浸透戦略

まず、図の左上のように、ある製品・事業を新規に進める場合、Product戦略・Price戦略が主となります。

ここでPMFを達成すると、同製品・同市場の中での拡大策である「市場浸透戦略」が用いられます。

具体的には、既存顧客に対するアップセル(より機能や品質の高い高価格帯商品の販売)、クロスセル(周辺商品・関連商品の販売)などが挙げられます。

② 新市場開拓戦略

さらに、既存の製品をそのまま提供可能な市場・顧客層がまだ残っている場合には、Placeの拡充やPromotionの強化を進めることにより、事業を拡大していくことができます。

先に挙げた、デジタルマーケティング・セールスは重要な施策となります。

③ 新製品・サービス開発戦略

既存の製品から地続きにない機能や価値を提供する場合は「新製品・サービス開発戦略」となります。

ここではこれまでに見てきたように、まずはPMFを達成することに重きを置き、安易にチャネルやプロモーションを広げないことが重要です。

繰り返しになりますが、ペルソナの策定と提供価値の明確化、そしてそれらが実際に顧客から受け入れられる実績を作る必要があります。


④ 多角化戦略

新製品・サービス開発戦略の結果、PMFを達成し、さらにこの新製品・サービスを別の市場にも提供できるようになれば、「結果として」事業の多角化が進んだと言えるでしょう。

逆に、多角化自体を目標とする場合には、そこから逆引きし、複数回のPMF達成と拡販施策をストーリーとして描いていく必要があります。

【結論】

それでは今回の内容をまとめます。

まとめ

・マーケティングの”4P” の有効活用には “秘訣” がある。

・その秘訣とは、アンゾフの成長マトリクスやPMFなど、4Pに深く関連するフレームワークを合わせて考えること。

・PMF前はProductとPriceに、PMF後はPlaceとPromotionに注力する。




”4P戦略” は使えない?→ 有効活用の秘訣はこちら” に対して1件のコメントがあります。

コメントは受け付けていません。